プレセッション式で読むチャップリンのホロスコープ、後編です。
前編では、チャップリンが映画界でデビューするまでを追いました。後編では彼の人生の幕が閉じるまでを追っていきます。
1914年、映画デビューは彼が太陽の年齢域(25~35歳頃)に入ったまさにそのタイミングでした。彼の太陽は水星と合で7室、1室の天王星とオポジションしています。ここで注目すべきなのは、太陽のサンビーム(17度以内)に、火星が入っている、という点です。サンビームというのは、見過ごされがちですが、明らかに合と同じような影響をもたらします。牡羊座の太陽水星に牡牛座の火星が合(その火星は牡牛座金星と合)、ということから、彼が非常に能動的でチャレンジャーであり、また物欲や金銭欲にも支配されやすい傾向があり、非常に強いリーダーシップを持ちながらも社交の天才であったであろうことが伺えます。また太陽水星にオポジションする天王星は彼にオリジナルで新しい、型破りなアイディアと先見の明を、火星金星にオポジションする月は「大衆」へのアピール力をもたらします。この生まれ持った才能がいかんなく発揮されるのがこの太陽の年齢域、映画デビューからの約10年間、ということになります。
国際的スターになるまで
1915年、シカゴのエッサネイ社と契約し移籍した時、トランジットの木星はチャップリンの6室に入室しています。トランジットの木星が6室(雇用の部屋)に入る時期、それは多くの場合転職のチャンスであり、「今よりも良い条件の職場、雇用に恵まれるチャンス」を示します。
1916年、トランジットの木星が彼の太陽に合で7室、またトランジットの海王星が彼のMCに合のタイミングでチャップリンは破格の契約金でミューチュアル社に迎えられます。トランジットの木星が太陽に合すれば、多くは人生の大きな飛躍、大きな援助者の出現を示します。また、ここで注目すべきホロスコープ上の大きな変化はトランジットの海王星が彼のMCに合した、ということです。海王星は非常に運行の遅い天体であり、ひとつのサインを約13年かけて運行します。公転周期の長い天体ほど、「アングル」にヒットした時の影響色は多大なものとなります。海王星のMC合(10室入室)は、「夢を売る仕事」への適性を示し、また、世の中が彼に「夢を見る」という影響も及ぼすため、世の中への影響力の強さも与えます。この時期からチャップリンの映画スターとしての人生が爆発的に飛躍することはこの配置から読み取れます。
1918年、チャップリンは自身の撮影スタジオを設け、ファースト・ナショナル社と契約します。作品ひとつひとつに時間と労力を費やし、女優との結婚も果たしています。この時、t土星が彼のMCに合しています。土星がMCに合、これは言うまでもなく「人生の正念場、本領発揮」の時期であり、彼の努力が評価されたり、またチャップリン自身も人生における大きな決断をする時期でもあります。土星がアングルにヒットする時期に結婚するパターンは非常に多く、人生における大きな決断であることは明らかです。
1921年、大ヒット映画「キッド」を携えてのロンドン帰国。小説家H.G.ウェルズなど著名人達との親交を結びます。この時、t土星とt木星がチャップリンの11室を運行していました。11室は「親交」の部屋ですが、そこに土星(権力、実力)と木星(有名、教養、リッチ)が入ることにより、「著名人」との親交が多く結ばれたのです。また、11室は10室の「社会的使命」を終えたあとの「余暇、社会奉仕活動」の部屋でもありますが、この時チャップリンは戦後のヨーロッパの都市を巡り、帰国後に「My Trip Abroad」を口述で残しています。
1925年、「黄金狂時代」が記録的大ヒット。この時、t土星がチャップリンの1室を運行、t木星が彼の木星に合で木星回帰、t冥王星が彼の木星にオポジションを形成しています。彼の2室(収入)の支配星である冥王星が、彼自身の木星とt木星との合(非常に大きな拡大の作用をもたらす)とオポジションを形成していることは、この記録的大ヒットを説明するのに事足りる大きな影響力のあるアスペクトです。また、t土星が彼の1室を運行していることも、「これまでの彼自身の努力が実る、表面化する」現れ方として説明ができます。また、この時期を境にチャップリンは太陽の年齢域(25~35歳頃)から火星の年齢域(35~45歳頃)へと移動します。牡羊座の太陽(7室)から、牡牛座の火星(7室)への変化です。チャップリンの火星は8室の金星と重なり、8室のカスプの5度以内に入っているので、ここからチャップリンに「8室」の、また彼の牡牛座火星が持つアスペクト(8室金星の合、10室土星のスクエア、1室月のオポジション)が示すテーマが色濃く浮上するであろうことが読み取れます。
1928年、「サーカス」で第1回アカデミー賞特別賞を受賞。また同年に母親が死去。この時、t海王星はチャップリンの10室の終わりあたりを運行しています。チャップリンの「夢を売る仕事」の最盛期が終盤を迎え、大きな評価をもらったと読むことができます。また10室は社会的使命の他に母親という意味がありますが、ここに海王星(生と死の境目)が入るということが母親の死を示すことは分かりやすい例と言えます。それと同時に、この時トランジットの土星が彼の海王星冥王星の合(8室)とオポジションを形成しています。10室に土星があるチャップリンにとって、土星という天体自体が母親を示す天体となりますが、この土星が海王星冥王星の合という死をもたらす天体2つとのオポジションを形成したことによって母親が死を迎えるタイミングであったことも読み取れます。
1931年、「街の灯」が成功をおさめ、人気のピークを迎えます。ここでチャップリンは、1年半に及ぶ世界旅行へと旅立ちます。この時、彼の10室を運行していたトランジットの海王星は11室のカスプに重なり、11室へと移動しています。「人気のピーク」はまさに海王星が10室を去るタイミングであり、世界旅行への出発は海王星が11室の運行を開始したタイミングなのです。そしてこの時、トランジットの土星は彼の3室(小旅行)に、トランジットの木星はトランジットの冥王星と重なり9室(外国旅行)に入室しており、その3天体がオポジションを形成しています。彼が長期に及ぶ「世界旅行」をするのに絶好のタイミングであったことが伺えます。またこの時、トランジットの天王星が彼のDCに合し、7室の運行を開始しています。この年がチャップリンにとって大きな変わり目の年であったことは間違いありません。
1936年、「モダン・タイムス」と「独裁者」の発表。この2作品の政治的メッセージの強さから、チャップリンは欧米や日本の鋭進的な両派からの突き上げを受けはじめます。「モダン・タイムス」が発表された1936年2月5日のトランジットを見てみると、トランジットの土星と火星が彼の5室(表現・エンターテイメント)に入室し、トランジットの冥王星は彼のMCの8度圏内に迫り合しています。この配置から、「モダン・タイムス」が物議を醸し出す作品であること、この作品によって抑圧や攻撃を受けることになるということ、チャップリンにとって様々な課題をもたらす作品であると同時に、チャップリン自身が満を持して発表した作品であることも伺えます。また面白いことに、「独裁者」の公開日である1936年10月15日も同様に、トランジットの土星は5室に入室しており、そこにトランジットの火星がオポジション
を形成しています。土星と火星、この組み合わせが5室に関わることが、このような政治的で扇動的なメッセージの強い作品の発表と連動していることは、非常に興味深いことです。
またこの時期、チャップリンは火星の年齢域(35~45歳頃)から木星の年齢域(45~55歳)へと移動しています。牡牛座火星7室から、山羊座木星3室への移動です。「政治に対する風刺的な作風」が強くなったのは、この「3室」というジャーナリズムに関係するハウスの影響が、また山羊座という「政治」への関心が招く影響が強いとも言えます。
1941年、12月、アメリカの第二次世界大戦参戦により、映画制作の停止を余儀なくされます。この時、トランジットの冥王星はチャップリンのMCに合、10室の運行を開始しており、トランジットの海王星は12室(隠蔽、隠遁)に移動しています。10室の冥王星は人生の運命的な、宿命的な変化に翻弄される、巻き込まれることを示し、12室の海王星はそのまま隠遁の時期への突入を示します。
ハリウッド追放
1945~1947年、終戦後、チャップリンの作品に対する批難やバッシングが最高潮に達します。バッシングの最高潮であった「殺人狂時代」が公開された1947年4月11日のホロスコープを見てみると、トランジットの土星が彼のMCに合、またトランジットの冥王星が彼の10室の土星に合しています。これが彼の社会的立場にどれだけのヘビーなプレッシャーをもたらすか、想像に容易いことなのではないでしょうか。そしてこの後、彼は2回目の土星回帰を迎えることになります。また、終戦の時、ちょうどチャップリンは木星の年齢域(45~55歳頃)から土星の年齢域(55~70歳頃)に移動しています。山羊座木星3室から獅子座土星10室への移動です。ここから彼は本格的に「10室土星」を体験していくことになります。それは社会的な自分の立場の責任、義務、それを果たすための試練、努力、苦難です。獅子座の土星ですので、それらが「自己表現」「作品表現」のテーマのものとに起こることが読み取れます。また、これらの理由から、彼が土星の年齢域に作り上げた作品が彼の本当の集大成と呼べるものになるであろうことも読み取れます。
1953年、チャップリンは「ライムライト」のプレミアに向かう船の途中で国外追放命令を受けます。チャップリンの追放劇はチャップリンの名声が各国から利用される結果となりました。アメリカを去ったチャップリンは広大なぶどう畑のあるスイスの邸宅で家族達と晩年を過ごします。この時、トランジットの海王星と土星が彼のASCに合しており、またその2天体が彼の土星にスクエアを形成しています。これが彼にとって大きな「人生の破壊と再構築」の時期であると同時に、「政治的なものに巻き込まれる(土星+海王星)」こと、彼自身(ASC)が自然の中に身を置く(海王星)時期であること、彼自身のエネルギーが省エネモードに突入し、やはり「隠遁」が良しとされる時期であること、様々読み取れます。また、トランジットの天王星が9室を運行しており、「突然外国に行くことになる」という動きも読み取ることができます。
1965年、エラスムス賞を受賞。自叙伝がベストセラーとなります。この時、トランジットの木星が彼の冥王星に合、t土星が彼の5室を運行しています。木星は出版も意味しますが、もともと3室(発信)に木星を持つ彼は「彼の発信したものが広がりやすい」という傾向を持っており、その木星が冥王星に合することで、また土星が5室という自己表現のハウスに入ることで、自叙伝のベストセラーに至ることが読み取れます。またこの時すでに彼は土星の年齢域から天王星の年齢域に移っており、天王星がASCに合する彼にとってこの時期が人生で一番シンプルに「自分らしく在ることができる」時期であったことが読み取れます。
20年ぶりにアメリカへ
1972年、アカデミー賞名誉賞を受賞、授賞式に出席するためチャップリンは20年ぶりにアメリカに向かいます。この時彼は、トランジットの天王星が彼のASCに合、天王星回帰という人生に1度しかない瞬間を迎えています。彼が84年かけて築いてきたものが、まさに表彰された瞬間だったと言えます。また天王星は水瓶座の支配星でもありますが、この天体と「名誉賞」という11室を感じさせる賞が連動していることも興味深い事象と言えます。また、この時トランジットの土星が彼の8室の海王星と冥王星に合しています。これもまた、28年に1度の大きな「表彰、受け取る」時であったことを示しています。
死去
1977年、12月25日クリスマスの朝、彼は自宅で死去します。この時トランジットの冥王星が彼のASCに誤差0,04度という非常にタイトな合を形成しています。冥王星の公転周期は約278年、人生のうちでホロスコープを半周すらすることのない重く遅い天体です。これがアングルに、しかもASCに乗るということが、どれだけの大きなエネルギーの変化をもたらすか、それは想像に容易いことです。また彼自身の冥王星が8室で海王星と合していることも考慮すれば、これが彼に死をもたらす配置であることはこれだけで明確である言えます。またこの時、10室にはトランジットの火星と土星が入室しており、トランジットの太陽は彼の木星に合、またトランジットの月とトランジットの木星が蟹座で合、トランジットの天王星は月との合を過ぎ2室のカスプに合しています。これだけホロスコープ上で大きなエネルギーが生じる時に、本人の生命力の低下に従って、命が断たれるケースは多いのです。蟹座で月と木星が重なる日に自宅で死去したチャップリンが、家族に手厚く葬られたであろうことが伺えます。
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以上、前編と後編に分けてチャップリンの人生を、プレセッション式のホロスコープをもとに追ってみました。
後半の流れを年表にすると以下のようになります。
チャップリンの映画デビューから死去まで(プレセッション式で見たトランジット運行)
1914年 映画デビュー(年齢域が金星から太陽へ移動)
1915年 エッサネイ社と契約(t木星が6室を運行)
1916年 ミューチュアル社と契約(t木星が太陽に合&7室を運行、t海王星がMCに合)
1918年 ファースト・ナショナル社と契約、女優と結婚(t土星がMCに合)
1921年 「キッド」を携えロンドンに帰国、ヨーロッパを一巡(t木星とt土星が11室を運行)
1925年 「黄金狂時代」が記録的大ヒット(t土星が1室を運行、t冥王星が木星とt木星の合にオポジション、年齢域が太陽から火星へ移動)
1928年 「サーカス」が第1回アカデミー賞特別賞受賞、母親が死去(t海王星が10室の終盤を運行、t土星が海王星冥王星の合とオポジションを形成)
1931年 「街の灯」の成功、人気のピーク、世界旅行への出発(t海王星が11室のカスプに重なり11室運行開始、t土星3室とt木星冥王星の合9室がオポジションを形成、t天王星がDCに合)
1936年 「モダン・タイムス」と「独裁者」の発表(t土星が5室を運行、t冥王星がMCに合、年齢域が火星から木星へ移動)
1941年 アメリカの第二次世界大戦参戦により映画製作の停止(t冥王星がMCに合&10室を運行、t海王星が12室に入室)
1945~1947年 「殺人狂時代」でバッシングのピーク(年齢域が木星から土星に移動、t土星がMCに合、t冥王星が土星に合、土星回帰)
1953年 「ライムライト」のプレミアに向かう船の途中で国外追放命令を受ける(t土星とt海王星の合がASCに合&n土星とスクエアを形成、t天王星が9室)
1965年 エラスムス賞を受賞。自叙伝がベストセラーとなる(t木星が冥王星に合、t土星が5室を運行)
1972年 20年ぶりにアメリカへ、アカデミー賞名誉賞を受賞(t天王星がASCに合、t土星が海王星冥王星に合)
1977年 死去(t冥王星がASCに合)
前編と同様に、大きな天体がアングルにヒットした時に人生の大きな出来事が起こりやすいことを、実感していただけたのではないかと思います。特に彼が死去した日時に、冥王星が彼のASCにo.o4度というほぼ0度と呼べる誤差でピタリと合していることは、見逃すことのできない強烈な配置です。また、彼の人生において起きた出来事と、それを引き起こした天体を照らし合わせることで、それぞれの天体が持つ意味や影響も実感していただけたのではないでしょうか。
今回は、私が敬愛するチャップリンという人物の人生、ホロスコープを、プレセッション式で読み解いてみました。プレセッション式の正確さを十分に証明するために、トランジットとアングルの関係を重点的に追ってみましたが、原因はどこだろう?とあちこち”探る”必要は全くなく、彼の人生の大きな出来事の日時をプレセッション式のホロスコープに重ねれば自然とアングルにヒットしているのです(天体やハウスのカスプにヒットしている場合もあります)。これが本来の占星術の「正確さ」を示しているのだということを、主張したい次第です。今後も、多くの方にプレセッション式の正確さ、本来の占星術の正確さを実感していただくために、様々な著名人の人生をプレセッション式で追っていく記事を書いていこうと思います。
LUCY.PAN