喜劇王と呼ばれたチャールズ・チャップリンの人生を、彼のホロスコープから、プレセッション式で読み解いていきます。
彼の人生の出来事を追いながら、プレセッション式のホロスコープが「本来のホロスコープの姿」であり、トランジットの天体が起こす影響をどれだけ的確に示しているかを、証明していきます。
チャップリンが生まれたのは1889年4月16日、夜の8時、場所はロンドンです。
彼の出生図をプレセッション式にすると以下のようになります。
ASC 天秤座16.26度
MC 獅子座0.29度
1室 天王星・月
3室 木星
6室 水星
7室 太陽・火星
8室 ベスタ・金星・海王星・冥王星
9室 パラス・キロン・セレス
10室 土星
11室 ジュノー
となります。
カルミネート天体は土星、小惑星ならセレス。
アンギュラー天体は天王星・水星・太陽・セレスとなります。
(※小惑星の入室ハウスを記しましたが、記事では小惑星には触れていません。)
では、彼自身のキャラクターや人生の流れを追いながら、ホロスコープを読んでいきましょう。
「喜劇王」と「トリックスター」
「喜劇王」という異名が、ASC天秤座、1室に天王星・月、MC獅子座、7室に太陽・水星・火星を持つチャップリンに与えられたことは、必然的であることがすぐに分かります。これが従来のホロスコープならば、彼はASC蠍座、1室には月のみで7室は火星・金星・海王星・冥王星ということになります。どちらが「喜劇王」の異名を付けられるに必然性のある配置かは、占星術の知識がおありになる方なら、判断がつくことと思います。ASC蠍座で7室に冥王星と海王星があれば、まず「喜劇」にはならないでしょう。またもしそうならば、チャップリンの体型はもっとどっしりとしていたはずですです。
チャップリンは、おどけた化粧を取れば、とてもハンサムな男性でした。ハンサムな印象(ASC天秤座の支配星金星が牡牛座で8室)を、チョビ髭のおどけた化粧とちぐはぐな服装(1室天王星・7室水星)で、面白おかしく演出(MC獅子座・7室太陽水星合)していたのです。また7室水星は、肩幅を華奢にさせ、すっきりとした体型にします。そして、「きっちりした、知的な格好」を似合わせます。その水星が牡羊座にあり、天王星とオポジションにあることで、「ロックな(反骨精神の)要素」が生まれ、チャップリンはボロボロで肩幅の狭い紳士服を着て、アナーキーな社会のあぶれ者を演じることで、完璧に自己のキャラクターを作り上げたのです。そして、1室の月は「大衆からの人気を得やすい自然体の魅力」があり、少女のような魅力、一面もあったことを示しています(これは映画の中の彼が見せるはにかむような仕草や笑顔に象徴されます)。また、どれだけアナーキーな社会のあぶれ者を演じたとしても、1室にある月が、彼を「親しみやすい庶民的なキャラクター」にしてくれたのです。
「喜劇」を作り上げるのに必要な要素とは何でしょうか?それは「トリックスター」としての性質です。プレセッション式において彼は1室(生まれもった性質、キャラクター)に天王星、7室(後天的に身につける、または他者と接する際のペルソナとしての性質、キャラクター)に水星を持ち、また太陽と水星の合が、天王星とオポジションしており、この3天体がアンギュラーハウスに入り、さらにアングルの8度以内に入ることで、強く「アンギュラー(突出)」していて、彼の主な強いキャラクター要素を構成していることが分かります。水星と天王星は、10天体のうち、トリックスターとしての役割を担う天体です。その場をしっちゃかめっちゃかにかき回して、変化を起こし、「固定概念」を壊していきます。世の中の決まり事などまるで関係ないかのように、動き回り、人々を驚かせ、新鮮さを与えます。また、その水星・天王星の2つのトリックスターの天体が太陽(本人自身)に合とオポジションで絡んでいることで、彼自身に「周りを巻き込む力」が強く与えられるのです。チャップリンの映画では、ほとんどの登場人物がチャップリン演じる主人公の突飛な行動に振り回され、走り回され、翻弄され、変化を促されます。「トリックスター」のキャラクター的な意味がよく知りたければ、チャップリンの映画を見ればすぐに分かる、というくらい、非常に象徴的で分かりやすいキャラクターです。
チャップリンの出生と幼少期
彼の両親は2人とも俳優でした。それは、4室(父親)の支配星が天秤座に、10室(母親)に獅子座の土星があることからよく分かります。(天秤座の天王星も獅子座の土星もエンタティナー性を表します)。また、ASC(1室)は生まれてすぐの幼少期の環境を示しますが、彼のASCにはすぐ近くに天王星が乗っています。これは、幼少期に突然の変化や離別を経験する、ということになりますが、実際に彼の両親は彼が1歳の時に離婚しています。その以後彼は母親の元で育てられることになりますが、4室(父親を示す)の支配星が天王星であり、それがASCに乗っていることから離別の対象が父親であることが分かり、また10室(母親を示す)の土星は1室の月とスクエアで、母親が彼を育てるために苦労をする、父親の役割もしなければならなかった、ということが分かります。
彼は5歳の時(1894年)に舞台に立つ母親が喉をつぶし、その代役として人生の初舞台を踏んでいます。そして、その以後母親は舞台に立てなくなり、貧窮生活に追いやられます。この時彼のホロスコープでは、何が起きていたのでしょうか?その答えは明確にホロスコープに示されています。その年、トランジットの土星が彼のASCに乗り、1室を運行していました。トランジットの土星が1室に入ると、人生に分かりやすく試練が訪れます。それは、「自分自身(1室)」を鍛える期間でもあるのです。また、それと同時にトランジットの天王星が彼の月に合しています。月は母親を示すため、「母親に突然の変化が起こる」ことも分かります。
1896年頃、チャップリンの母親は精神に以上をきたし施設に収容されます。この時、トランジットの土星が彼の月に乗っていました。月(母親)に土星(試練)が本格的に訪れたのです。そして彼にも本格的な試練が訪れることとなります。月(心)に土星(我慢・ストレス)です。そして、そのトランジットの土星はトランジットの天王星とすぐ近くで重なっていたため、天王星の影響もまだままだあったのです。彼が貧窮生活によって貧民院や孤児学校を渡り歩いていたのも、月(家庭・生活)が天王星(変化する・離別する)ことから、血の繋がらない人達との生活や移転の多い暮らしをしていたことが分かります。この配置を見れば、彼にとってこの時がどれだけの試練と苦痛と忍耐の時であったか、想像に容易いことです。
映画界に踏み入れるまで
1899年、彼はダンスの一座に加わります。この時、木星が彼のASCに重なり、1室を運行しています。木星が1室に入るとその人自身の魅力や才能が評価され、また、人生に対する大いなるチャレンジ、初めの一歩が促されるのです。この時期に始めたことは、そこから木星がホロスコープを一周する約12年の間に、拡大され、最終的に大きな成功や評価を得ることとなります。この年がチャップリンにとって「舞台」を展開する最初の一歩、幕開けであったことは明確です。それと同時に、トランジットの天王星と土星が彼の2室を運行していました。これは、「独自の才能が育つ、また独自の収入に繋がる能力の鍛錬、契約や縛りが生じる」ことを示します。彼に、決意と覚悟があったことは明白です。
1903年、彼が様々な劇団を点々とし、演技のスキルを学んでいた時期、トランジットの土星は4室にありました。彼にとってこの時期が「演劇の基盤を作り上げる」時期であったことがよく分かります。そして、土星が西半球の最初のハウスに入ったことで、ここから長い「他者へのアピール力を身につけて行く課題」がはじまったのだということが分かります。そして、彼のネイタルの獅子座土星は10室(社会的到達点)にあるため、トランジットの土星はいつでも「彼の社会的な到達点(演劇)についての課題」を持ち運んでいるのです。4室は、10室(社会的到達点)を支える、裏付けするための非常に大切な基盤となります。この時期に培われたスキルや経験が、その後の彼の演劇人生において非常に重要な体験として身に付いたであろうことが分かります。またこの時期、トランジットの木星が彼の5室を運行していました。5室は、エンターテイメントや自己表現を示します。彼が、非常に伸びやかに彼自身の才能を発揮し、表現の幅が広がり、それが非常に肯定的に世間の目に触れ、認められたであろうことが読み取れます。
1908年、彼は兄の勧めで名門の劇団に入り成功し、一座の若手看板俳優となります。この時、トランジットの木星が彼のMCに重なり10室を運行していました。木星がMCに重なり10室に入れば、それは「社会的に評価される、またそのようなチャンスが広がる」時期となります。彼が一気に花開いたであろうことが容易に想像できます。またこの時、トランジットの土星は彼のDCに重なり7室を運行していました。彼が「自分の意志で、後天的に身につけて行くキャラクター性について、長期的な目線で取り組んで行く」時期であること、また「演劇者としての表現(10室土星)が人の目に分かりやすく現れるようになる(7室)」であることも分かります。また、彼を名門の劇団に導いた兄の存在は、彼のネイタルの3室(兄弟)に木星(導き手)があることから、彼にとって兄という存在が大きな幸運、拡大へと導いてくれる存在、ラッキーパーソンであることが分かります。
1910年、彼がついに当たり役を演じ大成功をおさめた時、トランジットの木星が彼のASCに乗っています。彼が1899年、ダンスの一座に加わった時から、木星がホロスコープを一周しまたASCに帰ってきたのです。約12年間、彼が広げ続けてきた可能性は、彼自身の実となり、ここにきて大きな評価を受け取ったのです。彼はここからまた、新たな自分の可能性を感じ、新たな人生の一歩を踏み出していきます。
映画界デビュー
1913年、映画プロデューサーの目にとまった彼は映画スタジオと契約し入社します。この時、トランジットの土星は彼の8室を運行していました。チャップリンはネイタルにおいて2室蠍座の支配星である冥王星が8室に入室しているので、彼の2室と8室はその「役割・テーマ」が連動しています。ですので、1899年、彼の2室にトランジットの土星が運行していた時に、ダンスの一座に加わったのと同じように、「収入の契約」が発生したのです。またこの1913年はトランジットの木星が彼自身の木星に回帰した年でした。12年分の総決算的な評価をされること、これも、木星の恩恵を如実に表しています。
翌1914年、彼は映画デビューを果たします。そこでキャラクターづくりとして、面白い格好を、と要求された彼は、ついにあのチョビ髭にボロの紳士服、ドタ靴にステッキというキャラクターを生み出します。この映画が公開されたのは1914年の2月2日ですが、この時なんと、トランジットの木星・天王星・金星・太陽・水星という5天体もの合が、彼のIC(水瓶座)に所狭しと乗っているのです。非常に象徴的で、その表現、チャップリンの存在が「目新しい」ものであり、彗星のごとく世に現れ、その強いキャラクターがすぐに広く認知されたであろうことが読み取れます。IC(4室)というのは、「西半球」の始まりの一歩であり、「他者へのアピールへの第一歩、基盤」を示します。そこに、これらの天体が重なり合って入室していたことは、彼がその後驚異的な早さで世界的な有名人になることをまま示していると言えます。また、彼はASCに天王星が乗っているため、天王星自身が彼を示す天体でもあるのですが、この天王星がトランジットで4室に入ったことは、彼自身にとって「他者へ自分の存在をアピールしていく、他者と関わりながら何かを作り上げていく時代のはじまり」であることも表しているのです。また、そのトランジットの天王星にさらにトランジットの木星がアンギュラーハウスで合する、ということは、彼にとって人生の飛躍的な拡大期であったことも示しています。
また、この時(1914年)彼はちょうど25歳を迎えています。これは「年齢域の転換期」です。金星の年齢域(15~25歳頃)から、太陽の年齢域(25~35歳頃)へと、大きな人生のテーマの変化を彼は体験しています。彼は金星が牡牛座で火星と合で、8室(試練や運命の変化を体験しやすいハウス)に入室しているため、15~25歳は「逆境の中、運命に翻弄されながら、強さと才能を身につけて行く」時期だったのです。ですが、この映画デビューの年から、彼は太陽の年齢域に移り、ここから牡羊座太陽に水星合、天王星オポジションが7室(他者へのアピール、パートナーシップ、後天的に身につけるキャラクター、自己プロデュースがテーマとなるハウス)の「自分のオリジナルな個性と知性とアイディア、主張を他者に強くアピールしていく」時期に突入したのです。彼がここから先の太陽の10年間で「自分の独自性のあるアイディアを強く他者に主張する、発揮する、新しいものを世に生み出す」時期を迎えることが分かりますし、実際、彼はこの1914年からすでに監督と脚本を務めています。この年齢域の転換は、彼の牡羊座太陽が示す「映画監督」としての才能が芽を出した瞬間であったと言えます。
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さて、ここまで、チャップリンが映画界でのデビューに至るまでを追ってみました。
これまでの流れを、年表にしてみます。
チャップリンの出生から映画デビューまで(プレセッション式で見たトランジット運行)
1889年4月16日 生誕 すぐに両親が離婚(ASC天王星合・1室天王星)
1894年 母親の喉がつぶれ、初舞台に立つ(t土星が1室を運行、t天王星がn月に合)
1896年 母親の施設収容、貧民院や孤児学校を転々とする(t土星・t天王星がn月に合)
1899年 ダンスの一座に加わる(t木星がASC合・1室を運行、t土星・t天王星が2室を運行)
1903年 劇団を転々とし、スキルを身につけていく(t土星が4室を運行、t木星が5室を運行)
1908年 名門の劇団に入り人気若手俳優となる(t木星がMC合・10室を運行、t土星がDCに合、7室を運行)
1910年 当たり役を演じ大成功をおさめる(t木星がASC合・1室を運行)
1913年 映画スタジオと契約(t土星が8室を運行、木星回帰)
1914年 映画デビュー(t木星、t天王星、t金星、t太陽、t水星の合がICに合、4室を運行)
こうして彼の人生を年表にした時、彼の人生における「象徴的な出来事、人生の変わり目、ターニングポイント」の時期において、トランジットの天体をプレセッション式の出生図に重ねた時、必ずトランジットの天体が「アングル(ASC-DC、IC-MCのライン)に合」し、「アンギュラーハウスを運行」していることが明白に分かっていただけるかと思います。
「アングル、アンギュラーハウス」がなぜ「アンギュラー(角・突出)」なのか。人生において「突出した、目立つ出来事が起こる」のだ、ということをこうして目に見える形で示されれば、納得していただけるのではないでしょうか。これはチャップリンだけに言えることではなく、全ての人のホロスコープで顕著に見ることができる現象です。アンギュラーハウスのナチュラルサイン(本来の担当サイン)の牡羊座、蟹座、天秤座、山羊座が「活動宮(事を起こす)」であることからも、アンギュラーハウスが持つ影響力の強さはお分かりいただけるかと思います。また、アンギュラーハウス以外のハウスも、それぞれ明確なテーマと意味、役割を持っており、その影響はネイタルにおいてもトランジットにおいても、顕著で分かりやすいのです。
長くなりましたので今回はここで一度記事を終わります。
後編では、彼の人生の幕が閉じるまでを追っていこうと思います。
LUCY.PAN